事業実績

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平成31年度(2019年度) 事業実績

事業の総括

 本事業は平成26年度からの継続的な調査研究事業であり、今年度は実施の最終年度となった。平成31年度は、これまでの実施内容を踏まえた継続的な調査研究とともに、幅広く得られた課題をもとにした発展的な調査研究を行なった。クリエイターや劇団などの創作現場の人々や、図書館・美術館・資料館などのアーカイブの現場の人々と、保存・活用に関する課題の共有とともに、どのような協力関係を築き、制作・上映・保存という一連の活動に繋げていくべきかという問題に対し、イベントやシンポジウムなどの開催を通じた検討を行った。また、舞台芸術・芸能関係が広範な分野やメディアを取り巻く、特異な性質をもつ芸術であることを捉え直し、映像資料とその他の資料を複合させた、利活用の可能性について着目し、調査研究を行なうとともに、映像文化資源の大規模での公開を見据え、英国のフィルムアーカイブにおける組織的な対策や取り組みについて訪問調査を実施した。
 こうした活動は、これまで活用されていなかった映像資料の分析を可能とし、演劇学・映像学をはじめとする人文諸科学の深化に多大な貢献を果たすだけではない。研究成果を上映会やホームページ・SNS等で広く社会に発信していくことにより、散在・死蔵されたまま劣化・消滅の危機に瀕する映像資料に対する注意を各機関や所有者に対して促し、結果として、貴重な文化資源の保存・活用促進に大きな効果があると考えられる。また、著作権などを含む、公開についての諸課題は、組織を超えた協力関係を築き対応を行なっていかなければならず、本事業を通じて新たなコミュニティ創出のきっかけを提供できた意義は大きいといええる。6年間にわたる継続的な活動によって、演劇博物館は演劇映像文化の専門機関として、舞台映像の保存と利活用に対する諸課題についての認知度を、一般に向け高めることができた。高度情報化社会の中において、保存・公開をめぐる諸課題は、常に変化する状況にある。今後も継続的および発展的に活動を行い、多様な映像文化のデジタル保存と利活用を促進するようなモデルを提起していきたい。

■研究課題
(1)デジタル映画の保存・活用に関する調査研究
(1-1)劇評家・扇田昭彦旧蔵映像資料のデジタル化と目録化による継続調査
 過去3年間にわたり、劇評家・扇田昭彦が残したVHSに関する訪問調査および映像デジタル化を並行して行った。今年度は、残ったVHSのデジタル化を完了させ、扇田旧蔵映像資料目録を作成した。演劇関係者や演劇愛好家だけでなく、学術的な活用も視野に入れ、完成した目録の一般公開に向けた最終準備と、それに基づいた映像資料のデータベース構築の基盤を形成した。

(1-2)著作権法改定以降の著作権処理と資料公開のための調査研究
 平成30年12月末の著作権法改定に伴い、新たな法的課題に直面している状況である。昨年度までの調査成果を踏まえ、広く一般に著作権に関わる課題を共有するためのイベント「舞台芸術における著作権の課題」を開催した。

(1-3)デジタル・データの品質確認作業効率化についての調査研究
 資料のデジタル化においては、デジタル画像データの品質確認作業として、色調整処理結果の確認を主とし、ブレやゴミの確認、ファイル名や画像化順序などの検査が欠かせない。当館では、検査作業を画像編集ソフトを利用した手作業での確認を行っているが、これを機械的に行うためのソフトウェアの試作と、それを用いた作業効率化などの実証検証を実施した。

(2)フィルム映画のデジタル保存・活用に関する調査研究
(2-1)映像関連資料のデジタル化と利活用についての調査研究
 特殊な形態をもつ関連資料の試験的デジタル化を行うことで、その技術的課題を明らかにするとともに、データベースでの公開を視野に入れた目録情報の作成など、データベース化のための基礎的研究を実施した。対象資料は次の通り。
 ・2016年に寄贈を受け、新聞報道もされ社会の話題となった、映画人・宮嶋八蔵の旧蔵資料のうち、書き込み脚本、製作ノート、スクラップブックなどの形態の資料
 ・感熱紙など、資料の経年劣化の危険性が高い製作資料を多く含む、映画監督・小林悟の旧蔵資料

(2-2)舞台芸術・芸能関係映像のデジタル化と活用に向けた調査研究
 戦後を代表する舞踊家・武原はんと俳優・滝沢修などに関連する映像資料と保存方法の調査研究を行った。今年度は、引き続き舞台芸術・芸能関係者から寄贈された映像資料を対象にデジタル化を実施し、これまでの調査研究内容を応用した保存方法を確立するとともに、社会文化的価値を明らかにするための内容調査(目録作成、題目および上映年代の特定)を実施した。

(2-3)演劇博物館所蔵フィルムの劣化状態の経過調査
 平成29–30年度の2年間にわたり、当館では所蔵フィルムを対象にビネガーシンドロームや結晶化といったアセテート(酢酸)フィルム特有の劣化状態に関する調査を実施してきた。これまでの調査結果をもとに、劣化の度合いに応じた保存処置作業を行った。作業は、専用の試験紙「A-D Strips」による再検査、続いて、映画フィルムに新鮮な空気を与え、酢酸濃度を減少させ劣化速度を緩やかにする「枯らし作業」、最後に、劣化進度の抑制を目的とした、酢酸吸着剤の封入作業の三工程に分けて実施した。また、劣化フィルムの隔離保存や換気、酢酸吸着剤の効果測定、デジタル化複製の順番など、今後に向けた対応方針の検討を行った。

(3)デジタル映像アーカイブの持続的活用に関する訪問調査
 演劇博物館所蔵のデジタル映像をインターネットで公開する際に生じうる課題の把握と解決を目的に、イースト・アングリア大学(英国)のフィルム・アーカイブ(EAFA)にて、映像資料のデジタル化状況、保存媒体とマイグレーション、国際発信の方法等について訪問調査を行った。

(4)歴史映像のデジタル加工とデジタル修復に関するワークショップ
 近年のデジタル修復技術の発達によって、傷や揺れの補正をはじめとして過去の映画フィルムを様々なかたちで修復することが可能になった。2019年に公開された映画『カツベン!』(周防正行監督)でも、劇中に上映されるサイレント映画を現代の役者によって撮影して使用している。デジタル技術は映像表現や映像文化にどのような可能性を開いているのか。そして現在、そこにはどのような限界があるのか。映画『カツベン!』の公開と演劇博物館所蔵のサイレント映画資料の調査を機縁として、サイレント映画という最も古い映画のかたちに対して最新のデジタル技術はどのように関わっているのかについて、シンポジウムを開催し討議した。

(5)映像資料と関連資料を組み合わせた館内展示の可能性に関する調査研究
 館内展示の可能性を模索するための調査研究として、女優・淡島千景の経歴を写真資料から紐解くことを目的に、宝塚時代から舞台での活動までの写真アルバムの一部をデジタル化し、資料調査を行った。また、地域への文化資源の還元を目的とした、映像資料(デジタル化を終えている武原はん、淡島千景、滝沢修などに関する映像資料)と、スクラップブックなどの関連資料を組み合わせた館内展示を行った。

■関連イベントの開催
「シンポジウムと映画上映 デジタル時代のサイレント映画 映画『カツベン!』を事例に」
日時:令和元年11月23日(土)14時00分~16時30分
場所:早稲田大学 小野記念講堂
登壇者:野口光一(『カツベン!』VFXスーパーバイザー、東映アニメーション)、大傍正規(国立映画アーカイブ)、柴田康太郎(早稲田大学演劇博物館)
出演者:片岡一郎(活動写真弁士)、山城秀之(活動写真弁士)、山内菜々子(活動写真弁士)、堅田喜三代(邦楽演奏家)、小輪瀬光代(邦楽演奏家)
構成: 『雷門大火 血染の纏』(1916年)の音色掛け合いと邦楽による上映(第一部)
映画製作、映画保存、映画上映それぞれの専門家によるシンポジウム(第二部)

「舞台芸術における著作権の課題-文化資源の有効活用にむけた情報共有」
日時:2019年12月2日(月)15:00~17:00
会場:早稲田大学 早稲田キャンパス7号館206教室
主催:早稲田大学演劇博物館
助成:文化庁 平成 31 年度美術館・歴史博物館重点分野推進支援事業
登壇者:坂手洋二氏(燐光群 主宰、劇作家)、福井健策氏(骨董通り法律事務所 弁護士)、君塚陽介氏(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 実演家著作隣接権センター 著作隣接権総合研究所)、辰巳公一氏(国立国会図書館関西館 電子図書館課 課長補佐)、中西智範(早稲田大学演劇博物館 デジタルアーカイブ室)

展覧会「追悼 映画女優 京マチ子展」での、デジタル化画像を活用した資料展示
期間:2019年9月28日~12月25日
会場:早稲田大学演劇博物館 1階 京マチ子記念特別展示室


平成30年度(2018年度) 事業実績

(1)デジタル映画の保存・活用に関する調査研究
 1980年代以降、VHSは使用頻度の最も高い映像記録媒体の一つであり、数多くの演劇が収録されている。本年度は、劇評家・扇田昭彦が残した約1000本に及ぶVHSに収められた舞台関連映像をデジタル化し、目録化に取り組んだ。これまでの調査では、ソフト化されていない第三舞台、夢の遊民社、天井桟敷などの演劇作品だけでなく、洋舞・舞踏関連のインタビューやドキュメンタリー、さらにはトニー賞授賞式の映像等を多数確認できた。今後は目録化を継続しつつ、デジタル化済映像の長期的な保存環境と方法の比較考察に加え、著作権の問題を解決しながら、学術研究を含む幅広い分野で利活用する方法および機会を模索したい。

(2)フィルム映画のデジタル保存・活用に関する調査研究
 過去4年間にデジタル化を完了した映像の活用を目的に、武原はんの貴重な舞踊映像を演劇博物館一階のシアタールームで上映した。また、その関連イベントとしてトークイベントを実施した。本年度は、武原資料での取組を援用し、俳優/演出家・滝沢修や映画監督・小林悟の寄贈資料に含まれる映像媒体(8・16ミリフィルム、オープンリール、VHS等)の整理と合わせて、本館が収蔵する映画フィルムの中から414本を対象に「A-D Strips」を用いた劣化調査を行った。その結果、ビネガーシンドロームを含む、ワカメ状化や結晶化といった顕著な劣化状態にあるフィルム群を選定することが出来た。今後は、調査データをもとに、館内でのフィルム保存環境の改善とフィルムのカラシ作業を効率的に進める方法を引き続き検討したい。

■関連イベントの開催
「武原はん秘蔵映像特別上映」
期間:2018年12月12日(水)~2019年1月31日(木) ※2018年12月19日(水)、23日(日)〜2019年1月6日(日)は休館日
時間:各日11:00、14:00<>br 会場:早稲田大学演劇博物館 1階 ミニシアター
上映作品:『雪』、『巴(1996)』、『囃子 猩々(1970)』、『黒髪(1972)』、『葵の上(1972)』、『杜若(西川鯉三郎との稽古風景)』。
代表作や稽古風景において武原氏が美しく舞う姿をスクリーンに蘇らせる試みが好評を博し、異例の上映期間延長となった。

「武原はん秘蔵映像 公開記念解説トークイベント」
日時:12月12日(水)17:30~18:30
会場:早稲田大学早稲田キャンパス 6号館 3階 レクチャールーム
解説:児玉竜一(演劇博物館副館長)
特に武原氏の代表作である『雪』および『杜若』に注目し、国内の舞踊史における武原氏の評価が多角的に詳述された。充実した内容の質疑応答もあり、武原はん氏の功績を再考する有意義な機会となった。


平成29年度(2017年度) 事業実績

(1) 舞台芸術・芸能関係映像の媒体及び長期保存のモデルケース構築のための調査研究
 舞台芸術・芸能関係映像の特性は記録メディアの多様性にある。演劇博物館は戦後を代表する日本舞踊家の武原はん(1903-1998)に関連する映像資料を収蔵しているが、このコレクションにはVHSやベータといった一般的な記録媒体に加えて、16mmフィルム、Uマチック、1/2インチオープンリールなど、現在では通常上映・再生が困難な稀少メディアも多数含まれている。こうした資料を舞台芸術・芸能関係映像資料の一つのモデルケースとして捉え、映像媒体の特性及び適切な保存方法を調査するとともに、文化的価値を明らかにするための内容調査(目録作成、題目及び上演年代の特定)を行った。結果的に、今まで現存が確認されていなかった多数の映像が再発見され、大きな成果となった。今後は、著作権の問題を考慮しながら、上映会等を通じて映像公開の機会を模索したい。

●研究報告冊子「武原はん 映像作品目録」を作成しました。

 今年度(平成29年度)、舞台芸術・芸能関係映像資料の一つのモデルケースとしておこなった、武原はん(1903-1998)映像作品コレクション(16mmフィルム、Uマチック、1/2インチオープンリール、VHS、ベータ)の内容調査(目録作成、題目及び上演年代の特定)の成果を1冊にまとめました。本冊子は、演劇博物館の本館1階 和書閲覧室にて、閲覧可能です。

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武原 はん(1903-1998) プロフィール
昭和期を代表する日本舞踊家。徳島県生まれ。大阪の大和屋芸妓学校で芸者としての教育を受け、踊りの名手として人気を集める。
1930年に美術評論家の青山二郎と結婚するが後に離婚し「なだ万」の若女将を務める。
新橋芸者を経て、戦後に日本舞踊家として独立し、精力的に舞台を務めた。
1952年から毎年開催した「武原はん舞の会」は1994年まで40回続いた。
二世西川鯉三郎や二世藤間勘祖に師事したが、特定の流派には属さず、独自の舞を追求した。伝統的な上方舞の地唄舞などを得意とし、特に代表作である地唄舞『雪』は絶品と称された。一方で、梅津貴昶らによる振付の新作の上演にも熱心であった。
1975年勲四等宝冠章、1988年文化功労者を受賞。
客であった大仏次郎や中原中也らと親交を持ったほか、高浜虚子に俳句を学び、句集も出版した。お座敷芸であった上方舞を舞台芸術に昇華させたその功績は大きく、多くの信奉者を生み、その後の日本舞踊に大きな影響を与えた。

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(2) 稀少映像の試験的デジタル復元(坪内逍遙コレクションを中心とした館蔵資料)
 演劇博物館では、当館の設立者である坪内逍遙(1859-1935)に関する映像を複数所蔵している。とりわけ、16mmネガフィルムの「坪内逍遙博士葬送」(約2分、1935年)は、大学関係者のみならず、当時の文部大臣など各界の著名人も多数参列した極めて文化史的価値の高いものである。しかし、こうした映像は過去にアナログメディアに複製されているだけで、長期保存の観点からは決して適切な状態で保管されているとは言えない。劣化による映像価値の低下を防ぐためにも、本事業において試験的なデジタル復元を行い、フィルムの修復可能性及び長期保存のためのデジタル化の意義を実証的に検証した。


平成28年度(2016年度) 事業実績

(1)「舞台記録映像の保存状況に関するアンケート調査報告書」作成
 舞台記録映像の保存状況の現状を広く共有するため、平成26・27年度に、全国の劇団・劇場などの文化施設を対象に、舞台芸術・芸能関係映像の保存・活用に関するアンケート調査を実施しました。アンケート調査の結果と分析を報告書としてまとめました。
 アンケート結果から明らかになったのは、現在、劇団や劇場などの文化施設が所蔵する舞台芸術・芸能関係映像については十分な整理のなされていないものが多く、VHS やミニDV など古いメディアに記録された映像がデジタル変換されないままに劣化にまかせているなど、長期保存に向けた取り組みも立ち遅れているという現状でした。映像資料のデジタル化が十分に進んでいない原因として、映像資料の整理・活用に割ける人員と予算の不足に加え、映像記録媒体の性質や舞台記録映像の著作権に関する知識が共有されていないことなどが挙げられます。

報告書はこちらで公開しています。

(2)「舞台記録映像保存・活用ハンドブック」作成
 アンケート調査の結果を受け、映像保存媒体の性質や舞台映像の著作権に関する基本的な知識をまとめたハンドブックを作成しました。
 このハンドブックには、映像記録媒体の基本的な性質および保管に際しての注意点、舞台芸術・芸能関係映像の著作権に関する基本的な解説と、著作権の有無を判断するためのフローチャート、そして、舞台芸術・芸能映像が置かれる現状を示すアンケート調査の結果の一部抜粋を収録しました。
(ハンドブック作成にあたり、著作権専門弁護士である福井健策氏に、全面的にご協力いただきました。)

ハンドブックはこちらで公開しています。

(3)劇団・劇場等訪問調査
 平成26・27年度に実施したアンケート調査の結果を踏まえ、平成28年度は映像資料の保存・活用の状況についてより詳細に把握するために、劇団・劇場等の実地に赴いての調査を実施しました。個人蔵の映像資料(VHS)について詳細なリストを作成し、貴重な映像資料の所蔵状況を把握した他、いくつかの劇場等とは映像資料の保存・活用に関する協力の打ち合わせを行いました。

(4)映像資料の試験的デジタル化と公開
 平成28年度は、武原はん氏関連資料(16㎜フィルム、1/2オープンリール)、扇田昭彦氏関連資料(VHS)の試験的デジタル化を行いました。また、劇団「地点」映像資料など、これまでに当事業でデジタル化した映像の一部を演劇博物館で公開しました。


平成27年度(2015年度) 事業実績

(1) 舞台芸術・芸能関係映像資料所蔵状況調査アンケート
 東京圏を中心とした平成26年度に続き、平成27年度は全国に範囲を広げたアンケート調査を実施しました。

(2) デジタル映像の長期保存と利活用および著作権処理に関する研究会の開催
 平成27年度は研究会「舞台映像の継承のために」、シンポジウム「舞台芸術のアーカイブをめぐって」、成果報告会『夏芝居ホワイト・コメディ』上映会&トークの三つのイベントを公開で行いました。

各イベントの詳細については「研究会・シンポジウム」のページをご覧ください。

(3)舞台芸術・芸能関係映像の試験的デジタル化
 平成27年度は撮影時期や媒体、資料の稀少度や損傷度、権利関係の処理の可能性などを勘案し、「有楽町マリオン寄席」(VHS、45本)、劇団「地点」上演記録映像(miniDV、37本)、『想い出の日本一萬年』等、渡辺美佐子氏寄贈資料(1/2インチオープンリール、19本)の試験的デジタル化を実施しました。資料の一部は演劇博物館で公開しています。


平成26年度(2014年度) 事業実績

(1) 舞台芸術・芸能関係映像資料所蔵状況調査アンケート
 東京圏を中心に約570箇所の劇団・劇場・ホール・文化施設に対し、舞台芸術・芸能関係映像資料の有無、数量、保存媒体、保存状況等についてのアンケート調査を行ない、現状と課題を把握しました。舞台芸術の記録映像の際立った特徴として、VHSを中心にベータ、miniDV、Hi8等、非デジタル・非フィルム媒体によって保存された映像が多数にのぼることが明らかとなりました。

(2) デジタル映像の長期保存と利活用および著作権処理に関する研究会の開催
 次のとおり専門家を招聘し、連続研究会を開催しました。東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員とちぎあきら氏からは、白黒フィルムを長期保存媒体とする先端的な実験について、東京芸術大学・佐藤正人教授と馬場一幸教授からは撮影や長期保存に関する考え方や先端技術について、JVCケンウッド・シニアスペシャリストの石井幹十氏からはVHSの修復とデジタル化・保存の方法の多様性等について、著作権専門弁護士・福井健策氏からは、複数の著作権が含まれる舞台映像の著作権処理の方法や考え方・課題について、NHK放送技術局運行技術部・青木知偉氏からは、NHKアーカイブスにおけるテレビ映像の保存についてそれぞれお話しをいただき、舞台映像のデジタル化をめぐる諸問題について議論を深めました。

(3) 舞台芸術・芸能関係映像の試験的デジタル化
 大阪芸術大学太田米男研究室が所有する初期テレビ映画『ロッパの水戸黄門』(昭和35-36放映)16㎜フィルム、平成12年に主宰の東由多加氏が死去し活動を停止した東京キッドブラザースの舞台映像、平成27年1月に閉館した青山劇場の舞台記録映像など、撮影時期や種類の異なる稀少度の高い映像資料を選択して試験的にデジタル化を行ない、ストレージへの保存を行ないつつ、その活用方法を検討しました。